3月13日 第2179例会
確証バイアス
確証バイアスとは社会心理学の用語で、個人の先入観、思い込みに基づいて他者を観察し、自分に都合のいい情報だけを集めて、それにより自己の先入観を補強するという現象である。バイアスを直訳すると偏りを意味する。
「あの人の意見にはバイアスがかかっているから」のように思い込みや思想などから意見等が偏っていることにも用いる。
例えば「あの人はいい人だ」と周りから評価されている人がいたとします。
しかし改めて考えると、何を根拠にいい人と判断しているのかよくわからないケースもあります。
昔一度お世話になったから、顔立ちや雰囲気にいい人が漂っているから、まわりの人がいい人と言うから・・・ 何らかの情報から引き出された推論ではあるが、仮説にしか過ぎない事を経営者は認知しておく必要があるといった学問だ。
転職してきたAさん。本当は腹黒い人にもかかわらず、着任早々柔らかな物腰と笑顔で「いい人」という印象を社内に一旦植えつけたとすると、「いい人」的な事実ばかりを発見してしまう落とし穴にはまる危険性がある。
例えば得意先の社長に丁寧に挨拶するのを見て「やはりいい人だ」と思いを強める。
深夜までパソコンに向かっていれば「たいへんな
仕事を任されたのだろう」と信じ込む。
苦みばしったAさんの表情を見て女性社員は「素敵・・・」とうっとりする。
しかし本当は、不正経理の証拠を必死でもみ消しているだけかも知れ無い。
結婚詐欺の被害にあった女性で、詐欺男が多数の女性から言葉巧みに金品を奪い、警察に逮捕されたにもかかわらず「あの人は私に対してはそんな人じゃない」と訴える場面をテレビで見た事がある。これは結婚詐欺師に対してよい人のバイアスをかけてしまった結果の被害といえる。
推理小説でいかにもいい人そうなバックグラウンドを持つ人の、いい人行動を描写しておいた後で、実は凶悪犯であった・・・ こんな古典的な手法が今も有効なのは、誰もが確証バイアスから逃れられない証拠といえる。
人には自分が信じていることを確かめるための情報は探し受け入れるが、反論となるような証拠を無視したり、探す努力をわざと怠ったりする習性があります。このため、最初の判断を補強する情報だけで調整が行われ、自分の判断は「間違っていない」と錯覚してしまいます。これを“思い込み”とよび、年齢とともに激しくなる傾向にあるようです。
バイアスを昔ながらのことわざで表現すると「恋は盲目」「あばたもえくぼ」「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」など、かたよった仮説による判断の歪みを表現しています。
確証バイアスには逆のケースもある。
見るからに怖そうな男が込み合った阪急電車の席で座っていたとしよう。
そこに一人の妊婦さんが乗車してきた。他の乗客が気づかぬふりをする中で強面の男が「どうぞ」と席を譲ったとしよう。
風貌からの先入観でこの人は怖い、人のために自分を犠牲にすることは無いとの思い込みが逆転した瞬間に一気に信頼感が高まることもある。
確認バイアスの学問をビジネスに取り入れればブランドを強くする効果もある。
企業のイメージやブランドはまさに確認バイアスそのものと言える。
老舗とは長年にわたって生き残ってきた歴史、年月をもって人々に「信頼出来る企業だ」という仮説を抱かせる。
“すべてはお客様の「うまい!」のために”ビールのキャッチコピーに企業理念を融合表現した素晴らしい確証バイアスへの訴えである。
たとえ企業に不祥事が起きた時でも巧みな対応によって「さすが○○社」と逆転で確認バイアスに訴えることも出来る。
人間が持つ真理的な性質を理解した上で上手に活用し、企業経営、組織運営を行うことがロータリアンのスキルとして必要なのではないでしょうか。
<日経ビジネスより一部引用>
掲載日:2014年4月3日 | 目次:会長の時間(過去)に戻る